決意

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 研究所からそう遠くないところにある、何の変哲もないごく普通の学校。  ジョシュはその門前に到着すると、校舎の方を見やった。昇降口の前には下校する生徒たちが溢れ、若々しい賑やかな声が上がっている。この分だと、すでに帰ってしまった生徒も多そうだ。  あいつ、まだいるかな--。  会えなかったら何のために仕事を抜けてきたのかわからない。こんなことならもう少し早く来れば良かった、と後悔しつつ、次々と出てくる生徒たちを確認していく。そのとき、周囲から頭ひとつ抜け出た少年が目についた。向こうもジョシュに気付いたようである。 「おにいさん!」  アンソニーは人なつこい笑顔を見せながら、小走りで駆けつけてきた。 「どうしたの? 偶然……なわけないよね?」 「おまえに話があって来た……んだけど……」  そう言いながら、彼についてきた小柄な少女にちらりと視線を向ける。随分と子供っぽく見えるが同級生なのだろうか。アンソニーが実年齢より大人びているせいで、隣にいると余計にそう見えるのかもしれない。 「あ、紹介するよ。僕の同級生で彼女のカナ、こっちは姉さんの同僚のジョシュ」 「こんにちは」 「あ、ああ……」  カナに可愛らしい笑顔で握手を求められ、ジョシュは慌てて右手を差し出す。アンソニーに彼女がいるということは、以前に聞いたので知っていたが、ユールベルからあの話を聞いたせいか戸惑いを隠せない。 「カナ、ごめん。おにいさんと話してくるから、今日は先に帰ってくれる?」 「うん、じゃあ、またあしたね」  カナは素直にそう答え、ジョシュに礼儀正しくお辞儀をし、アンソニーには手を振って去っていく。 「で、どこで話をするの?」 「ああ……歩きながら……」  これからするのは誰にも聞かれたくない話なので、喫茶店に入るわけにもいかず、ジョシュにはそれしか思い浮かばなかった。変に思われはしないかと心配したが、アンソニーは特段気にする様子もなく、じゃあ……と言って、カナの去っていった反対側へ足を向けた。
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