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「それで……あいつ、何か……」
「何も」
彼がいつ知ったのかはわからないが、ユールベルと接する態度に変化はなかった。それ自体は悪いことではない。だが、知りながらなぜ放置していたのかがわからない。他人事だから関わらなかったのだろうか。関わるべきではないと思ったのだろうか。
しかし、ジョシュは、このままにはしておけなかった。
「おまえ、もうあんなことはやめろよ」
「なに、おにいさん嫉妬してるの?」
アンソニーは軽く笑いながら、茶化すように答えた。だが、ジョシュは表情を険しくしたまま崩さない。
「真面目に言ってるんだ。こんなこと……ユールベルも、おまえも、余計に傷つくだけじゃないのか? 残るのは虚無感と罪悪感だけだろう。根本的な解決にはなってない」
感情を抑えて諭すようにそう言ったが、その途端、アンソニーの目がぞっとするくらい冷たくなった。無表情のまま、少し顎を上げてジョシュを見下ろす。
「姉さんが壊れそうになって震えてるのを、黙って見てろって?」
「そうじゃない。方法が間違ってると言ってるんだ」
ジョシュは額に汗を滲ませながら言い返した。一瞬だが、遥か年下の彼に、言いしれぬ恐怖を覚えた。ラグランジェという恵まれた家で生まれ育ちながら、なぜこんなにも冷たく荒んだ目が出来るのかわからない。
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