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「おにいさんはいいよね」
彼はフッと鼻先で笑って、視線を流す。
「姉さんが落ち着いているときに会って、楽しく過ごすだけなんだから」
その静かな声に、ジョシュはまるで鈍器で後頭部を殴られたように感じた。何も言葉が出てこない。
アンソニーは顎を引き、厳しい顔になる。
「僕は一緒に暮らしてるんだよ。良いときも悪いときもずっと一緒にいるんだよ。たとえ一時でも落ち着かせられるなら、そうしてやりたいし、そうしなければいられない。あんな姉さん見てられないんだ。間違ってることくらい僕だってわかってる。じゃあどうすればいいのさ。間違ってるって責めるんだったら解決策を提示してよ」
「……ただ話を聞いてやるだけでも、だいぶ違うんじゃないか」
そう答えながらも、ジョシュは自分の言葉が嫌になるほど空疎に感じられた。戸惑いが声に滲む。言っている方がこれでは、何の説得力もないだろう。案の定、アンソニーは呆れたような顔で溜息をつく。
「何もわかってないくせにアドバイスするなんて、随分無責任だね」
「そりゃ、何もかも知ってるわけじゃないが……」
さすがに『何もわかってない』などと言われては、反論せざるを得ない。家族であるアンソニーとは比べようもないが、少しずつともに過ごす時間を積み重ね、わかり合おうとしてきたつもりである。けれど、彼はそれを軽い冷笑で薙ぎ払った。薄い唇に笑みをのせ、挑発するような眼差しで言う。
「いいよ、教えてあげる。姉さんのこれまでを」
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