決意

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 アンソニーから聞かされた話は、想像もつかないほど壮絶なものだった。  幼い頃に本家一人娘の魔導の暴発を受けて、左目の視力を失ったうえ、目のまわりに消えない傷を負ったこと。  実の親に疎まれて虐待され、結界を張った部屋に7年も監禁されていたこと。  その結界を自力で破って自由を手に入れたこと。  本家一人娘を階段から突き落としたと誤解され、責められ、壊れかけたこと。  そのとき世話してくれた人を好きになったが、冷たい態度でにべもなく拒絶され続けたこと--。  あまりのひどさに、口を覆って絶句するしかなかった。いったいユールベルの味方はどこにいたのだろうか。アンソニーも、ほんの数年前まで姉がいることすら知らなかったらしい。  無茶苦茶だ。何なんだこれは、どうしてこうなった。  怒りで体が震える。まだ見たこともない彼女の両親に憎しみさえ覚えた。  今なら理解できる。彼女が両親と離れて暮らしていることも、サイファが親代わりになっていることも、研究所でいきなり特別研究チームに配属されたことも。当主としての義務なのかもしれないが、彼女を守ってきたのはサイファだけだったのかもしれない。しかし、それもここ数年のことのようだ。
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