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「来週も今日と同じ時間でいいか?」
別れ際、ジョシュは軽く尋ねてきた。
そう、こうやって次に会う日時を決めることが、二人には当たり前になっていた。途切れることのなかった約束、終わりの見えなかった逢瀬--しかし、それも今日までのこと。ユールベルは口を引き結ぶと、そっと首を横に振る。
「何か予定があるのか?」
「……もう、会わない」
「えっ?」
単純に声が聞き取れなかったのか、訝しむ様子もなく、ジョシュは少し顔を近づけて聞き返した。ユールベルは小さく息を吸い込み、あらためて心を決めると、今度ははっきりとした口調で言い直す。
「もうあなたと会うのをやめるわ」
ジョシュの目が大きく見開かれた。
「……な、んで……?」
「今までありがとう」
ユールベルは抑揚のない言葉を返す。
「理由を教えてくれよ!」
「もう会いたくないから」
「……嘘だ」
ジョシュは喉の奥から絞り出すように言う。ユールベルはたまらず顔をそむけた。
「お願い……あなたといると苦しいの。これ以上、私のことを苦しめないで」
「……違う。俺と一緒にいるから苦しいんじゃない。俺から逃げようとするから苦しいんだ」
彼は冷静にそう言いながら、沸き上がる感情を堪えるように、体の横でこぶしをギュッと爪が食い込むほどに握りしめる。それを見て、ユールベルは、まるで自分の心臓を鷲掴みにされたかのように感じた。
「……そうよ」
胸を押さえて声を絞り出す。右目に涙が滲み、頭に熱い血が上っていく。
「でもそうするしかないの! あなたもいつか私から離れていく! 今は意地になって無理をしてるだけ。私がどんな人間かもうわかったでしょう? いつも誰かを利用して縋って……弟さえも……。心も体も穢れきっている。誰にも好きになってもらう資格なんてない。だから……」
「勝手に決めつけるなよ!」
ジョシュは感情的に言い返した。そして呼吸を整えると、涙目のユールベルを正面から見据える。
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