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時折吹く風が冷たい。
空はすっかり濃紺色に塗り替えられていた。星もあちらこちらで瞬き始めている。
二人は、植え込みまわりの煉瓦に、並んで座っていた。
ユールベルが泣き崩れたあと、ジョシュは何も言わずに、ずっと背中に手を置いて寄り添ってくれていた。ひとしきり泣き疲れるまで泣いて、少し落ち着いてくると、すぐ近くの植え込みの方へそっと促された。それから1時間ほど、ただ黙って膝を抱えるだけである。彼がどう思っているのか不安だったが、それを知るのが怖くて、尋ねることも顔を向けることもできない。
「なあ……」
不意に落とされた声に、ユールベルの体がビクリと震えた。それでも彼は言葉を繋げる。
「おまえ、あの家を出てさ、俺の家に来ないか?」
「……えっ?」
ユールベルは大きく目を見開いて振り向いた。
「おまえの家と比べるとだいぶ狭いけど……いや、もう少し広いところに引っ越してもいい。今までと同等というわけにはいかないが、なるべく不自由させないようにするから」
「……私たちって、そういう関係?」
「これからそうなるんじゃ、駄目か?」
ジョシュは許しを請うように尋ね返す。
ユールベルは眉を寄せてうつむいた。頭が混乱する。彼の言うことがあまりにも飛躍しすぎて、まともに受け止めることができなかった。家を出るように勧める理由はわかっているつもりだ。だからといって、どうして彼と一緒に住むことになるのかは理解できない。確か、自分は終幕を下ろそうとしていたはずなのに--。
「軽薄な気持ちじゃない。俺は、真剣におまえと……」
「弟を一人にするわけにはいかないわ。未成年だもの」
ジョシュの言葉を遮って、ユールベルはそう告げた。論点をずらした自覚はあるが、言ったことは嘘ではない。一人にするわけにはいかないし、両親のもとに返すわけにもいかないのだ。家族の関係を説明しなければ納得してもらえないかと思ったが、彼は何も尋ねてこず、ただ苦い表情で唇を引き結んでいた。しばらく考えて、ゆっくりと口を開く。
「じゃあ、あいつが18になるまで待つ」
「そんな先のこと……」
「俺は、待つよ」
困惑して口ごもるユールベルに、ジョシュは迷いなく言った。少なくとも現時点では、彼が本気でそう思っているだろうことは、ユールベルにも疑いようもないくらいに伝わってきた。
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