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しばらくして、ジョシュが自宅まで送ってくれた。
いつもは近くの交差路で別れるのだが、夜遅くなったからといって、断ったにもかかわらず強引についてきたのだ。おそらく、まだ精神的に不安定なユールベルを心配しているのだろう。扉の前に着いても、ジョシュは手を掴んだまま離そうとしなかった。何か言いたげに目を泳がせている。
「やっぱり今日だけでも俺の家に来ないか?」
「もう大丈夫よ」
ユールベルは努めて無感情に言う。
「なあ、もしつらくなって、泣きたくなっても……その……」
「わかっているわ」
それでもジョシュは手を離そうとしない。中にいるアンソニーと二人きりにしたくないのだろう。彼が何を懸念しているのかはわかっていたが、それでも帰らないわけにはいかないのだ。
握った手に、少し力がこめられた。
「なかなか信じてもらえないけど、俺は、本当におまえのことが好きなんだよ」
ジョシュは、思いつめたように切々と訴えかけた。
しばらく苦悶の表情でユールベルを見つめていたが、やがて細い肩に手を置き、様子を窺いながら少しずつ身を屈めていく。
彼が何をしようとしているかわかった。けれど、拒絶しなかった。
ユールベルが近づくジョシュの顔をじっと見つめると、彼は少し戸惑いを浮かべたが、それでも逃げることなくそっと触れるだけの口づけを落とした。優しい熱が伝わる。次の瞬間、彼の表情を確かめる間もなく、ユールベルは強い腕で思いきり抱きしめられた。足もとがよろけて、白いワンピースがふわりと舞う。
「何かあったら、何でもいいから俺を頼ってくれ」
彼の声が耳にかかる。
唇も、体も、心も、すべてが心地よくあたたかかった。
こんなことは初めてである。
今まで誰と一緒にいても、誰に縋ってみても、虚しさや悲しさという負の感情が消えることはなかった。それどころか縋るたびに大きくなっていた。けれど、今はどうしてだか幸福感の方が大きい。終幕を下ろそうとしていたはずなのに、その動機すら見失いそうになっていた。
もしかしたら、彼なら本当に--?
信じると断言することはまだできないけれど、気持ちは傾きつつあった。もし、信じることができれば、彼とずっと一緒にいられたら、きっとどれだけ幸せだろうと思う。そんな安易な自分に、幾何かの嫌悪感を覚えながらも--。
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