終幕

9/9
前へ
/207ページ
次へ
「アンソニー?」  ようやく家に帰ったユールベルは、真っ暗なリビングルームで弟の名を呼んだ。  しかし返事はない。  寝室やキッチンなど他のどこからも明かりが漏れておらず、浴室にもいる気配もない。もう寝てしまったのだろうか。何となく嫌な予感がしながらも、手探りで照明のスイッチを入れると、テーブルに紙が一枚置いてあるのが見えた。ユールベルは近づいて目を落とす--瞬間、それを掴み取って凝視し、大きく息を呑んだ。  紙にはアンソニーの筆跡で、ひとことだけ書かれていた。  さようなら、と--。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加