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「行くところに心当たりはないのか?」
「わからない……」
ユールベルは泣きそうになりながら、もういちど紙切れに目を落とす。さようなら--アンソニーが残したのはその一言だけだった。これを見つけたあと、帰りかけていたジョシュを追いかけて助けを求めたが、彼もまた驚いてあたふたするばかりだった。頭を掻きながら必死に思考を巡らせると、何か思いついたのか、パッと顔を上げて人差し指を立てる。
「そうだ、あいつ彼女がいただろう?!」
「同級生でカナって言っていた気がするけど、会ったこともないし、連絡先なんてわからないわ」
何度かアンソニーと一緒のところを見かけたことはあったが、会いたくなくて避けるようにしてきた。彼女の話も聞きたくなかったし、アンソニーもそれを察してか積極的に話そうとはしなかった。
「学校の先生は?」
「担任が誰かも知らない……学校の場所はわかるけれど……」
家族でありながら、一緒に住んでいながら、結局はアンソニーのことをたいして知らなかったのかもしれない。ただ利用していただけで、ただ甘えていただけで、彼のために姉らしく何かをしてあげたことなどなかった。考えれば考えるほど、自分がろくでもない人間だと思い知らされて絶望的な気持ちになる。目にじわりと涙が滲んだ。
「愛想を尽かされて当然だわ」
「いや違う、俺のせいだ……」
ジョシュは視線を落として沈んだ声で言う。しかし、すぐに顔を上げて気合いを入れ直した。
「今はそんなこと言ってる場合じゃない。アンソニーを見つけないと」
彼の言うとおり、今はアンソニーを捜すことが最優先である。ユールベルは涙を堪えてこくりと頷いた。
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