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「ユールベル、君の気持ちはわかった。だが、ラグランジェの名を捨てるとどうなるか、君は正しく理解しているのかな?」
「……特別扱いされなくなる?」
ユールベルは少し考えて答えた。
ラグランジェというだけで、多少の無理が通ることは知っている。研究所でもそれは実感していた。新人のユールベルが特別研究チームに配属されたのが、何よりの証左である。
「そう、それも影響のひとつだ」
サイファはゆっくりと肯定した。そして、一呼吸おいて続ける。
「加えて言うならば、私も表立って君を助けることができなくなる。もうラグランジェ家の人間ではなくなるのだから……わかるね?」
「俺が守ります」
ユールベルが口を開くより先に、ジョシュが一歩前に踏み出してそう言った。強い意志の漲る眼差しを、まっすぐサイファに送る。サイファも鮮やかな青の瞳でジョシュを見つめ返す。二人とも目を逸らそうとしなかった。ジョシュの頬に幾筋かの汗が伝う。と、サイファがフッとおかしそうに小さく笑った。
「ジョシュでは些か頼りない気がするな」
「そんなこと……は……」
ジョシュの声は次第に弱々しくなり、やがて唇を噛んでうつむいた。そんな彼を見ながら、サイファは涼しい顔でソファの背もたれに身を預けている。いったい彼が何を考えているのか、ユールベルにはわからなかった。
「わ、たし……」
息が詰まりそうになりながら、震える声で切り出す。みんなの視線が一斉に向けられた。少し怯みつつも、逃げることなく、静かな口調で噛みしめるように述べていく。
「私、誰かに守られなくても生きていけるくらい強くなりたい。そうなれるように努力するつもりでいるわ。でも……」
そこでいったん言葉を切ると、小さく息を吸い、顔を上げてサイファを見据える。
「いざというときは、ジョシュが守ってくれると信じているから」
彼は決して頼りなくなんかない。
あのときだって、誰よりも必死にレイモンドから守ってくれたのだから--。
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