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「集計……終わりました」
「ああはいどうも」
ジョシュはモニタから目を離すことなく、投げやりに答える。
ユールベルは彼が苦手だった。
自分も愛想はない。だから、そのことについてはとやかく言うつもりはない。だが、彼の場合は、単に愛想がないというだけではなく、棘というか、あからさまな敵意のようなものを感じるのだ。それは自分にだけ向けられているように思う。最初に会ったときからそうだったので、原因すらもわからない。
「いつまでもそんなところに突っ立ってるなよ」
嫌悪感を含んだ声でそう言われ、ユールベルはハッとして急いで席に戻った。うつむいて小さく溜息をつく。
「ジョシュは人間嫌いなんだ。気にすることはないよ」
突然、耳元で囁かれ、全身がぞわりと粟立つ。
同じフロアで仕事をしているレイモンドだ。
ジョシュよりも幾分年上の30歳くらいだろうか。彼は何かとユールベルを気に掛けてくれる。優しいのかもしれない。だが、そのコミュニケーションの取り方が、ユールベルには馴染めなかった。距離が近すぎるのだ。くっつかんばかりに顔を近づけてきたり、腕や肩に触れてきたり、親しくもないのに無遠慮に私的な空間に踏み込んでくることに不快感を覚えるのである。
そんなユールベルの心情をわかっているのかいないのか、レイモンドはさらに肩に手をのせて続ける。
「今度ゆっくり相談にのろう」
「……いりません」
「遠慮することはない。そうだ、今夜一緒に食事でもしながら話を聞くとしよう。いい店を知っているから予約をしておくよ。仕事が終わるころに迎えに行くから」
ユールベルの拒絶などお構いなしに、レイモンドは勝手に話を進めると、白い歯を見せて片手を上げ、自席へと戻っていった。
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