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辺り一面が緑の絨毯のような広大な草原。そこに一本の線を引くように流れ、途切れる事がない心地良いせせらぎを運ぶ川。
その近くに仰向けになっている俺に覆い被さるように広がる、底抜けに青い空。時折吹くそよ風が銀色の短い前髪を微かに揺らす。
目をうつらうつらとさせ、今にも眠りの世界に踏み入れようとしたその時、俺の鼓膜をビュッと風を切るような音が震わせる。不意の事に閉じそうになった目蓋を開き、そのまま視線だけ横へと向ける。
視線の先では黒で統一した衣服に身を包み、紫色のロングヘアが目立つ小柄な少女が川辺に腰をかけたところだった。
膝を抱えるように座るので、その姿が更に小さく見える。しかしその小柄な手に握られている釣竿はその体格に似つかわしくないほど長く、太い。そしてその先端からは糸が垂れ、水面にはウキが浮かんでいる。
先ほどの風を切るような音の正体はその釣竿が川へ向けられ振られた音だろう。
「スピ」
俺はネクタイを緩く巻いた白いワイシャツの上にベージュ色のカーディガンといった、いかにも学生っぽい服装の上半身を起こしながら少女の名を呼ぶ。
少女のここでの本当の名は【スピニング】なのだが、長く呼びにくいので、大抵の人が省略し【スピ】と愛称で呼んでいる。
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