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しかしスピは俺の呼び掛けに何の反応も示さない。その視線は水面に浮かぶウキに向けられたまま。
「釣れそう?」
スピが愚問だとばかりにこちらを一瞥する。いつもならばそのままそれ以外の何の反応もなく会話は終了するのだが、今日は少し違うようだ。
「フユキ……」
一瞥の後にか細く、幼さを感じさせる声で俺の名を呼ぶスピ。俺はいつもとは違った展開に新鮮さを感じ、どうした?と返す。
「……ひいてる」
暫くの沈黙の後、ウキを見つめる視線はそのままにスピが呟く。ひいてるというのは水中にある釣りの餌に獲物が引っかかったということだろう。が、スピが持つ釣竿にはそんな様子は伺えない。
俺は一瞬考えた後、地に放り投げてある自らの脚の先にあるもう一つの釣竿を見た。
スピより先にこの場所で釣りをしていたが、あまりに釣れないので川に糸を垂らしたまま地面に固定してある俺の釣竿。
成る程。確かにウキは沈み、糸は張り、竿が僅かにしなっている。
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