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「よう、ミケ」
「にゃあ、相変わらずなまけてるにゃー」
名前と食い違う真っ白なパーカーと真っ白な尻尾のアクセサリーを身につけた全然三毛ではないミケ。猫耳フードを目深まで被っているので、あまり表情を伺えないが、口元から察するに俺に対して呆れているようだ。
「魚も釣れないし、天気もいいんだ。怠けたくもなるって」
「スピちん今日もすごいにゃ! 大漁ー!」
俺の弁解を華麗に無視し、ミケはスピの頭をなでなでと撫でる。スピはほんの僅かに頬を緩めるも、声を発する事はせず、九匹目の魚を釣り上げた。
その大きさは目測でも、ゆうに一メートル半位はある大物。とても小柄な少女が軽々と釣り上げられるとは思えない。
しかしその少女はまたも魚を抱きかかえると針を抜き、既に山積みになっている八匹の生魚の上にそれを重ねた。
そう現実ではあり得ない。この広大な草原。唯一流れる一筋の川。そこに存在する大き過ぎる魚。
全てが偽り。でも俺たちにとってはそれが唯一の現実。
ーーここはゲームの中だ。
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