「嬉々迫る不幸自慢」

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「ふ、不幸自慢……?」 サキュバスがいぶかしげに問う。 僕は、 「そう、不幸自慢だ。その名の通り、お互いの不幸を競う。より不幸のほうが勝ち。ただ、それだけさ」 劣っているものの価値を図り、測り、計り、量る。痛みの強度を。辛さの大きさを。劣等感の肥大さを。積み重ねた妬みを。 僕は心で皮肉気に笑う。器の小ささに。 僕はより不幸なのだからと。だから弱音を吐く権利があるんだと。キミはそこに入るなと。そう言いたいのだ、僕は。 不幸を誇って、何になる。意味はない。惨めさだけだ。 だが、気持ち良い。 自分に酔うのは気持ち良い。不幸に酔うのも気持ち良い。酔うことに酔うのも気持ち良い。 その、快楽を。惨めさと卑屈さと自己擁護と自己嫌悪に生まれる、この快楽を。 満たされているキミが持つべきではない。 僕にとって、歪んでいながらも、『良い』と名のつくものを獲るんじゃない。 僕より満たされている奴の不幸自慢は不愉快だ。
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