「嬉々迫る不幸自慢」

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僕は制止する。聞くに堪えない。つまらない。 「なんじゃ、あまりの不遇さに降参か? まぁ、仕方なかろう。国民何万に差別される我に敵うことなど」 「今は不幸自慢をしているんだ。何、幸福自慢をしているんだ、お前は」 「……は?」 サキュバスは呆気に取られたような顔をする。それはこっちの顔だ。呆気に取られたなんてものじゃない。呆れ返っている。 「差別なんて、普通のことを声高々に言ってどうする。まさか、それが、不幸とでも言うのか? キミは」 「な、なんじゃ、そ、そうじゃろう。差別されるのは、とても辛いこと……」 「僕は親から差別を受けている」 サキュバスの表情が強張る。何にショックを受けているのか、僕には理解できない。 「僕はもう、親から見捨てられている。世間体のために、僕はまだ生きてこれたけど、もうそろそろ限界だ。僕は寮に押し込められた」 僕もそれを望んでいたけれど。もう、今から帰っても、家の敷居は越えられないだろう。高校を卒業したら、勘当されるだろう。 「両親は僕が嫌いだ。不出来で、見てくれも悪くて、不気味で、期待に添えない、愚息だと。家庭内で差別を受けた」 食べるものは僕だけ違う。部屋は僕だけない。僕の発言権はない。僕がいるだけで会話は途切れる。僕がいなくなると家族は賑わう。 他にも、他にも。あったのだ。
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