「嬉々迫る不幸自慢」

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サキュバスさんは、 「別に、そんなことは二の次じゃ。我は貴様の傍にいるのが落ち着くから、傍に置いておきたいのじゃ」 「…………落ち着く?」 僕はいつから癒し系になったというんだ。そんなわけないだろうが。 「……僕に、そんな要素があるとは思えないが」 「ぬ? まぁ、貴様からすればそうかもしれぬの。しかし、貴様の魂は、実に我好みなのじゃ」 「魂?」 「うむ、サキュバスは精を吸う魔族。精の塊とも言える魂については敏感なのじゃ。集中すれば、どのような魂なのかもよーく観察できる」 サキュバスさんは、僕の胸を見ながら言う。いや、僕の目には映らない、僕の胸の中の何かを見ながら言う。 「貴様の魂は、黒い。魔族が大好きな、負の感情が蔓延っておる。ぐるぐると、鎖が巻きつくように纏わり付いておる」 サキュバスさんの僕の魂の批評に地味にグサグサ刺さる。まぁ、たぶん事実なのだからいいのだけれど。 「しかしの」 サキュバスさんは瞳を僕の目に向け、続ける。 「その黒色は、透き通っておる。これほどの負の感情を持ちながら、誰も憎んでおらん。これほど世界を嫌いながら、世界を見限っておらん。聖母が全てを等しく愛するように、全てを等しく憎み、悪魔が無差別に暴虐を働くように、全てを無差別に認めておる。そんな、相反する魂じゃ」 とても、大層な話じゃないか。買い被りすぎだと思う。僕の心はもっと単純だと思うのだが。
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