「嬉々迫る不幸自慢」

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僕は溜め息を吐いて、 「……なら、ちゃんと謝ろう。乱暴に振り解いて悪かった。申し訳ない」 これで満足だろう。さぁ、早く帰ることだ。夜更かしは美容の天敵だともいうし。 「うむ、素直に謝ったことは褒めてやろう。しかし、我が聞いているのは弁解じゃ。何故かを言ってもらおうか」 「…………」 しつこい。 ああ、何なのだ。これは。謝ったからいいじゃないか。確かに悪いのは僕だ。過失は10割で僕だ。それは客観的に明らかだ。なら、もう僕の主観などいいじゃないか。自分は悪くないからって、そんなことまで踏み込んでくるのか。 悪気はないのだろう。自分に自信があるのだろう。結構なことだ。だがそれは押し付けだ。感情の暴力だ。嫌になる。 ……まぁ、嫌だと思っているのは、僕だけだ。ここはぐっと堪えてしまえばいい。それが大人の対応というやつだ。 そう、思った矢先。 「それにしても、全く、我のようなか弱く不幸な少女にそんな冷たく当たるとは、酷い男もいたものじゃ。きっと貴様は満たされて生きてきたのじゃろうのう。我からすれば、とんだ甘ちゃんじゃ」 「……あ?」 この、女は。どの口はそれを言っている。 サキュバスは、ん? と呆けた顔をし、 「何じゃその目は。ははん、図星を突かれて驚いておるの? まぁ、我ほどに不幸なものはいないから仕方ない」 「……なるほど、とんだ甘ちゃんだ。甘やかされた女は、見るに耐えない」 「……なんじゃと?」
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