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【ヒナタ】
僕は夢を見た。
悲しい、悲しい夢を。
暗い森の中にある、屋敷の外で、目の前で広がる血…。横たわるのは僕と同じ髪をした女の人。
その向こうでは誰かと戦っている男の人。
僕はただ泣いてるだけ。
幸せだった。ついさっきまでは。あいつらが幸せを壊した。
あいつらが……ヴァンパイアが。
『ヒナタ!……ヒナタ!』
走ってきて駆け寄って来る華月お兄様。
『華月!ヒナタを連れて逃げろ!』
『しかし、ーーさん!』
『いいから!』
そしてこちらを向いた、僕と同じ瞳をした男の人。まだあいつらと戦っている。
僕は悲しかった。その人とお別れになる。血を流しながら、男の人は僕に笑いかけた。
『ヒナタ…お前は生きろ。俺とイヴの大切な…大切な…俺の子…』
泣きながら僕の名前を呼ぶ男の人。僕は更に泣いた。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。もうバイバイなんて嫌だ。
『世界で一番…愛しているよ、ヒナター……』
そしてまたニッコリ笑う。すると、目の前で横たわっている女の人が目を開いて俺の頬に手を添えた。
『…ヒナタ、逃げるのよ…。私は貴方を産んだ事を後悔してない…。あの人にも出逢えてこんなに愛おしい息子もできて幸せな毎日だったのだから…。愛してるわ…ヒナタ…』
血溜まりの中に、綺麗な女の人はなみだを流しながら微笑んだ。
『……華月!行け!こいつらの狙いはヒナタなんだ!』
『何…?』
そしてお兄様は幼い僕を抱っこして走り出す。
やだ!止まってお兄様!2人が…僕の大切な2人が死んじゃうよ!
お兄様に抱きかかえられながら、遠くなっていく2人を見る。
2人共、涙を流して…でも愛おしそうにこちらを見て笑っていた。
そして、お兄様はコウモリになって僕を連れていった。
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