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刃平はその日は学校を休んで、午前中から喫茶大正堂に来ていた。
服装は、詰め襟の制服を着ている。
喫茶大正堂は、ASILの近くにある喫茶店である。
雇われマスターは、ASILの名誉相談役でもある通称「ジイサン」、山梨 大蔵だった。
刃平は年末から、大正堂で社会見学を兼ねて、実質アルバイトをしている同い年の佐久原南奈に、ちょくちょく会いに来ている。
彼はカウンターの1番奥に陣取るのがいつものパターンで、今日もそこにいた。
午後1時から、ハカセの研究成果の一部を、エライさんを集めてわかりやすく発表する定期説明会合があるということで、瀬織の奨めで聴講にきたのだ。
学会の発表と異なり、頭の固めの人にもわかるような話しになっている、という理由で、今回、刃平にも奨めたのだ。
コードネーム「ハカセ」は、EUのゲルド国と日本人のハーフで、天才の頭脳をもっている。
14歳ながら、すでに量子学の研究のため、ASILに所属している。
仙人と気について、量子論から解き明かそうとする彼女は、学問の道では異端である。
性格は、プライドが高く、高飛車なところがある。
年齢のいった男性のような話し方をする。
カウンターの向こうからジイサンがコーヒーを出す。
「まだ11時だ。今日は姫は12時からだし、ジョユウも学校だから、このじじいとばばあだけだ。13時までヒマだろ?」
ジイサンの奥さんの美鈴が
「わたしはまだ40歳、ばばあにはまだ早いでしょう。」
と口をはさんだ。
刃平は
「ジイサンも行くんでしょ?説明会。」
と聞いた。
「行く行く。わしゃあハカセのファンだからな。」
とジイサンはウィンクした。それが様になっていて嫌みに見えない。
刃平はジイサンに聞いてみたかったことをぶつけた。
「ジイサンは、姉さんと古い付き合いなの?」
「ん?ああ。若い頃、軍の仕事として仙手を習いに、初代のところへ行ったときからな。
あいつは初代の娘で、二代目になったんだ。
その時と変わってない…いや、少し下品になったかな?」
「姉さんて歳いくつ?」
ジイサンは
「あ~、いかん。誘導尋問に引っ掛かったな。」
と言ってはいたが、なぜか嬉しそうだった。
昼飯を軽く食べて、ジイサンと刃平は会場である防衛省技術開発本部に向かった。
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