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「自転車……自転車がある!」
少女の目線には、俺が押してきたママチャリがあった。
「ああ、あれは俺の自転車だぞ」
そう言った瞬間、少女の表情が輝いた。
「あなたの!? お願いします! 明日返しますから、貸してください!」
いや、自転車って……。
確かに歩くよりは早いだろうが……こんなんで逃げられるのか?
「俺は別に歩いたって帰れなくもないから構わんが……」
「ありがとうございます!」
少女が俺の身体から離れて頭を下げる。
「すみません、お名前……いいですか?」
「紅葉高校二年三組、泉岳寺シノブだ」
「私は紅葉高校二年一組、梅屋敷アスミです。自転車、必ず返しますからね!」
そう言って少女――アスミは勢いよく看板の陰から飛び出し、俺のママチャリに飛び乗る。
すると、不意に俺のママチャリが光り輝き、あれよあれよと言う間に凄まじいスピードで走り去っていったのだ。
って、なんじゃこりゃ!
「しまった……! お待ちなさい!」
気付いたお嬢様が、慌てて追いかける。
しかしアスミの姿は既に見えない。
何がなんだかわからぬまま、俺は残された光の粒子が消えゆく様を呆然と見つめていた。
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