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「一撃で終わらせてやるぜ!」
俺は目の前に立ちはだかる糀谷とかいう執事に向かって駆ける。
こんなジジイにかかずらっている暇はない。
早くアスミを助けなくちゃならねえんだ!
「全く、その目はワシを見ておらぬな……」
ジジイが不敵に笑う。
「仕方あるまい。立場を分からせてやろう!」
――消えた!?
不意に、目の前から糀谷の姿が消える。
どういうことだ、こちらの身体能力は体操服で上がっているはずなのに!
「教えてやろう、小僧」
聞こえた声は、右から!
「ワシは体操服でパワーアップした貴様より、遥かに強いぞ」
糀谷の拳が、俺の脇腹に突き刺さる。
「ぐああっ!」
俺は思わず倒れ込んでしまう。いてえ! いてえええ!
「力任せの攻撃しかできぬ貴様には、何をされたか分からぬだろう。衝撃を内部に伝える術もあるということだ」
そう言って糀谷がこちらを睨み付ける。慢心は一切ない。
「身体に流れる気を練り、敵に叩き込む。何十年と生きてきて、ようやく辿り着いた極意だ。貴様ごとき小僧に、遅れをとるわけにはいかないのだ」
くそ……だが、ここで倒れたらアスミが……アスミが……
「一つだけ、教えてやろう」
糀谷が、重苦しい声で俺に告げる。
「私は、お嬢様が生まれた頃からずっと側に仕えていた。貴様等のように、昨日今日で作られた絆とは重みが違う。実力でも想いの強さでも、貴様はワシに勝てぬのだよ!」
糀谷の言葉は、まるでハンマーのように俺を殴りつけてきた。
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