第三話:蜘蛛女と老執事

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――俺はこいつに勝てるのか? ゆっくりと身体を起こしながらも、俺は精神にぽっかりと穴を穿たれたような感覚に襲われていた。 不良相手に無双していた俺の喧嘩が通用しない。 早くアスミを助けなくちゃならないのに。 くそっ、弱いな俺は。まさに井の中の蛙だよ。 だけど、まだ身体は動く。 動く限り、戦うしかないだろう! 「うおおおおお!」 俺は一気に距離を詰め、糀谷に向かって拳を振り下ろす。 「馬鹿の一つ覚えだな」 しかし糀谷は、俺の拳を難なく弾き、もう一方の手でボディブローをかましてきた。 「がはっ……!」 いてえええ! 腹の中で爆弾が爆発したような衝撃が巻き起こる。 「泉岳寺君! もういい! もういいよ!」 遠くから、アスミの声が聞こえる。 「ごめんね、泉岳寺君……。私ね、いけないのに、ダメなのに……あなたが来てくれた時うれしいって思っちゃった。一人で戦うの、ずっと怖くて……だから、嬉しいって、幸せだなって思っちゃった……。ごめんね、泉岳寺君の気持ちも考えずに、ごめんね」 バカだな、アスミ。 自分も恥ずかしい思いしてんのに、そんなこと謝ってんのかよ。 本当にバカだよ、お前。 まあ、バカはお互い様だけどな……。 「ほう、起きあがるか……」 糀谷の言葉で、俺は自分が立ち上がっていることに気付いた。 「よお、確かに俺とアスミは昨日出会ったばかりだ。絆という観点で言うなら、お前とお嬢様には到底かなわないだろう。だけどな……」 俺は拳を握り締める。 よし、力は入る。これなら、あいつを殴れる。 「女を辱めて笑ってるような連中に、俺は絶対に負けねえ! 辱められて、泣きながら、それでも俺を気遣う女を残して倒れるわけにはいかねえ!いかねえんだよ!」 俺の中に残っていた迷いや諦めといった感情を吹き飛ばすように、俺は叫ぶ。 糀谷は表情すら変えずに俺を見据えていた。
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