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俺は別に悪いことをしたいわけじゃない。
しかし、俺の凶悪な容姿が平凡な人生の邪魔をする。
クラスからは孤立し、変な不良グループからスカウトされ、断れば襲い掛かられるってな経験を何度もしてきた。
最初の方はそりゃもうボッコボコにされたもんだ。
しかし、何度も喧嘩を吹っ掛けられれば当然慣れてくる。
それに、俺だって痛い目を見るのは好きじゃない。降りかかる火の粉を払うために身体を鍛えたりもした。
そのおかげで、今では殆ど喧嘩で負けることは無い。
そうなれば当然、色々面倒なうわさも付随してくるわけで、いつの間にやら『紅葉高校の狂犬』なんていう偉そうな異名がついてしまった。
こんな俺に好き好んで近づく奴はいないし、初対面の相手にすらさっきの小学生のような反応をされて逃げられる。
くだらねえな。ああ、くだらねえよ。人生なんて。
別に俺はイケメンになりたいとか思ってるわけじゃない。別に不細工でもいい。キモ男でもいい。
普通に他人と会話して笑いあえる、そんな容姿に生まれたかった。
人通りの少ない路地裏は、こんな俺の姿を隠す格好のスペースってわけさ。
押して歩くママチャリのカゴの中には、日本一有名な少年漫画雑誌が入っている。
パラパラとめくってみれば、かっこいいヒーロー達がか弱き女子を守り巨悪に立ち向かう姿がページ狭しと描き出されている。
女の子を守るヒーロー……ね。
全く、俺とは遠くかけ離れた存在だな。
いくら強くなっても、誰も守ることはできない。傷つけることしかできない。
そう思うと、無性に悔しくなって。
ふと、柄にもなく空なんか眺めたくなってしまったってわけだ。
しかし、俺の目に映ったものは蒼穹ではない。
――悲鳴を上げながら落下してくる、一人の少女だった。
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