発端

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  終電前に彼女と別れ、俺は一人で例の男の家へと向かう。 彼女の話によると、奴は今日仕事で朝まで忙しく自宅作業をしているらしい。 つまり、他には誰もいないということだ。 俺はポケットの中を探り、小さな金属の存在を確認する。 これは彼女が自慢げに見せてくれた彼氏の家の合鍵。 酔った彼女のバッグから抜き取ることなど、造作もない事だ。 奴の家は新築のマンションで、まだ部屋はあまり埋まっていないとのこと。 だから、声を気にしなくても大丈夫……などという気分の悪くなることを彼女は言っていた。 まあ即ち、少しばかりの悲鳴ならば問題にならぬということだ。 条件は完全に整っている。 まるで神が俺に『彼女を救い出せ』と導きを与えてくれているようだ。 俺はエレベーターに乗り、彼氏が住む部屋の前に立つ。 さあいよいよだ。 ポケットのナイフを握りしめる。 失敗は許されない。 だが、これはやらねばならぬことなのだ。 俺は自分への気付けのために頷くと、そのままゆっくりと鍵穴に鍵を差し込んだ。
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