知らないキス

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県大会、初戦の相手は言ってみれば格下。 だからって余裕だったわけじゃないし油断していたわけでもない。 だけど勝負と言うのは分からないもので、しかもトーナメント戦だから負けたらそこでお仕舞いなわけで。 ピッピ――――ッ 30秒、いや10秒あれば結果は変わっていたかもしれない。 なんて負け惜しみだって分かっていても考えずにはいられない。 65対64 志筑高校の夏は夏休みに入る前に終わってしまった。 上がった息のままベンチに戻ってくる選手達。 かける言葉なんて見つからない。 見つかったとしても、喉の奥に何かつっかえて声を上げることすら出来ない。 「みんな、お疲れ。挨拶に行こうか」 アキの声に涙が零れそうになるのを奥歯を噛み締めて我慢する。 礼をするみんなの後姿に視界が滲んでしまって、急いで手の甲で瞼を拭った。 『インハイへ行こう!』 なんて高校生の枕詞。頑張れば行けるものじゃない。 それでもこんなに早く終わるはずじゃなかったのに――。 「みんなっ、頑張ったのに」 隣で泣きじゃくる一年マネの木村に「そうだね」と答えて彼女の背中をそっと撫でる。 「ごめん、俺の力不足で……」 みんなの真ん中で項垂れるアキ。すると、 「馬鹿か! お前の力不足で負けたとかぬぼれ過ぎ!!」 「痛っ! コータ!?」 そのアキを思いっきりグーで殴ったのはコータで。 「まだウィンターカップがあんだろ? まだまだ終わりじゃねえよ!!」 誰もが去年のままじゃない。 「……その前に、コータは補習な」 「うわっ! 今それ言っちゃう!?」 少しずつみんな成長して、前を向いて――。
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