知らないキス

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「そう、負けちゃったの」 いつもより声を低く感じるのは多分気のせいじゃない。 誰よりもバスケには妥協しない彼だから、『残念』とか『悔しい』だけではなくもっと複雑で。 そんな気持ちが伝わって来るから嬉しくて。 「でも、みんな次はウィンターカップだって――」 「泣かなかった?」 「え?」 「俺のいないところで泣いてない?」 「……」 そんな優しい声に今まで我慢していたのに泣きたくなってしまう。 だけどお互い顔は見えないから、 「泣いてなんか」 強がってみたのに。 「うん、泣いちゃダメだよ。他の男に泣き顔なんて見せちゃダメだから」 なんて。 「……馬鹿」 「本気だよ。あとほんの少し我慢して。もう少ししたら――」 帰るから。 その言葉が嬉しくて、泣きたくなってしまうというのに。
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