知らないキス

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次はウィンターカップ。 といっても目標があまりにも先過ぎて、しかも3年生は受験生と言うこともあるから。 「美穂は引退するの?」 そんな真由美の声に美穂は苦笑い。 確かに受験で勉強もしないといけなくて。でもマネージャーは自分が抜けてしまうと一人だけに。 だから、 「迷ってる」 素直にそう答えると真由美も「そっか」と答える。 「私は引退することにした」 「え?」 驚く美穂に今度は真由美が苦笑い。 「自分でもそんなに上手くないって分かってるし、何より身長が足りないし」 「そんな身長は」 「関係あるよ。それに後輩が十分育ってるというか、あたしより背の高い子も上手い子もいっぱいだしね」 それは別に彼女のことを指してるわけではないけど美穂の頭の中には彼女の姿が浮かんでしまう。 「美穂は受験受けるの?」 「え?」 そんな考えも『受験』の一言で吹き飛んで。 「あ、えと……」 「考えて、ない?」 「……うん」 学力的に行けるところは限られてる。だけどどこに行きたいのか? 何を勉強したいのか? そう聞かれても答えは自分の中にはなくて……。 「それ、分かるなぁ。あたしも別になりたいものもないし、だから適当に得意な文学部とかでいいかって思ってるけど」 「あたしもそれっくらいしか考えてないよ」 「そう考えるとさ、鳴海先輩ってすごいね」 そんな真由美のつぶやきに「……うん」と小さくつぶやいた。 去年、彼にはあんな偉そうなことを言ったくせに、いざ自分が同じ立場になってみると何をしていいのかわからない。 なりたいものもなるべきものも自分ができると思えることも見つからなくて。 「情けないなぁ……」 空を見上げて呟いてみる。だけどその声は彼に届くはずもなくて、 「なんか言った?」 隣でその声を聴いていた真由美に「何でもない」と答えて教室へ続く廊下を歩き始めた。
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