捻じれたまじない

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 その庭は、どこか不思議な空気に包まれていた。  緩やかに草を渡る風と、木々の葉が互いに囁きあう音。  初夏の香りは瑞々しく、フレイの鼻孔をくすぐり、彼の紅い髪を揺らして裏の斜面へと転がる様に流れていく。  大通りに面した屋敷の裏手にとは思えない静けさと、外界から閉ざされたある種箱庭のような雰囲気に眉を寄せる。  この空気は、忘刻の森に似ている。  認められた者だけを優しく招き入れ、招かれざる者を静かに拒絶する。そんな余所余所しさ。 「フレイ」  かけられた声に振り向けば、屋敷の裏口に立つ初老の男の姿が見えた。 「すぐ行く」  木の香りの中に、梁につるした肉や香辛料、煙草等の雑多な香りが混ざりこんだ部屋に案内される。とはいえ、調度品は年代を感じさせるが、どれもこれも良い品で、久しぶりの滑らかな革椅子の感触に肩の力を抜いて、フレイは小さく息をついた。サンドトレインで水の街を後にしてからは、安宿ばかりに留まっていたためか、柔らかで張のある革の感触が心地よい。  差し出されたカップを無言で引き寄せ、その琥珀色の液体に口をつける。  この紅茶も、爽やかな果実の香りがし、まさか大陸屈指の荒くれものが集う盗賊団で出されたものとはおもえなかった。 「私の前でくらい、そのマントを取ればいいものを」  そう言ったのは、エバンズ一家の棟梁(エバンズ一家の前身はちいさな大工の一族だったらしく、盗賊団となった今でも一族の長は棟梁と呼ばれるらしい)グスタフ=エバンズだ。 「ん、まあ暑いのにも慣れたしな……」  そうフレイが誤魔化せば、グスタフはその鋭い瞳を歪めて笑う。 「大方そのマントも封印の一つなんだろう。それとも、その腕に刻まれた紋様を見せたくないのか」 「……。」  グスタフの言葉に方眉をあげ、マントの中で自身の腕を触る。半袖から伸びた剥き出しの二の腕。グスタフも気づかぬ程の、一瞬の躊躇の後フレイはその腕の先を包み込む革手袋を脱ぎ、その指先をグスタフの前にかざした。 「何ともないさ。ほら、な」  傷一つない引き締まった腕が現れる。その肘から指先までを舐めるようにねめつけ、グスタフは小さく鼻で笑った。 「きれいな腕だ。お前の腕にしては」 「……まあ、な、」  グスタフの台詞に苦笑を浮かべ、フレイはその腕にまた革手袋をはめ直す。この壮年の男に隠し事は通じないようだ。

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