2、Fake Sweets

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私の今までの恋愛はこのケータイにくっついているストラップのお菓子の玩具のようだ…… いくら見た目が可愛くて甘そうでも、口にしてしまったら何の味も香りもしない…… 一度。たった一度だけ蕩ける様な甘い甘い恋をしてしまった21歳の時から、私の時間は止まってしまった。 ………… …… 神蔵茉莉(かみくらまり)27歳。彼氏なし。 オフィスビル“an”はさまざまな商業施設が入ったモールを一階に持ち、管理・営業を行っているビルだ。 茉莉はそこの営業事務に大学を卒業してから務めて四年目の、所謂中堅どころに位置する女性社員である。 「はぁぁあ、今日も何事もなく終わったぁぁぁ」 定時が過ぎて少しの残業をした後、更衣室を出て帰宅するべく廊下を歩いている途中。溜息とともに今日の疲れを身体の底から吐き出した。 「お前おっさんじゃないんだから、その大声何とかならないのか……?」 「賢士。お疲れぇ」 藤井賢士(ふじいけんし)27歳。彼女なし。 高校からの腐れ縁が今この時も絶賛継続中の茉莉の男友達の一人だ。 「うっさいわね。仕事終わりに何を言ってもかまわないでしょ?」 後ろから歩いてきた賢士に呆れながら溜息を吐かれたことに少しの羞恥にかられ、照れ隠しに少し声が低くなる茉莉。 「もう終わりか?」 このままだと茉莉の怒りを買ってしまうと思い、賢士は素早く話題を変える。 「見りゃわかるでしょ?もう着替えてるんだから、帰るだけでしょ」 こういうところはさすが営業というべきか、ただ付き合いの長さで茉莉の性格を熟知しているだけなのか、茉莉はコロッと今の羞恥を忘れる。 「俺も終わりなんだ。ちょっと待ってろよ、飲みにいこうぜ」
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