150人が本棚に入れています
本棚に追加
…………
……
あれから一週間が経過した。
会社で会えば賢士は相変わらず絡んでくるし、告白の返事も急かしてはこない。まじで嘘だったんじゃないの?ってくらい普通に接してくる癖に、前のように気軽に飲みに誘ってくることはない。
時々、本当に時々盗み見た賢士は、何かを堪えるような切ない眼差しでこちらを見ていることがあり、居た堪れなくなって視線を逸らすしかない時がある。
どうしろってのさ……
あんな顔されたらこっちの胸が痛くなるよ……
「ま……、神蔵……」
びくっと肩を揺らしてしまったのは仕方ないこと。
神蔵なんて、その声で呼ばないで……
「はい、なんですか?月次さん」
後ろから呼ばれ、笑顔で振り向くと20代後半には見えないクリクリの眼が印象的な可愛らしい外見の一人の男が立っていた。
月次幸太郎(つきなみこうたろう)28歳。その可愛らしい外見と巧みな営業トークで仕事をバンバン取ってくる我社のエース的な存在の営業マンだ。
「今期の決算の書類で聞きたいことがあって、部長に神蔵に直接聞けって言われて、」
幸くん……
「あ、はい。ちょっと待って下さいね。書類、引き出しの中なんで」
ニコニコと固い笑顔を作りながら、当たり障りのない会話をしながらデスクまでいき、必要事項を確認してから月次はすぐに出て行った。
幸太郎は茉莉の元彼だ。
最初のコメントを投稿しよう!