第3章

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広々と開放された南側の扉から、湿気を含んだぬるい風が道場に入り込む。 あれから入部して一ヶ月が過ぎ、落ちた体力と失った感覚は少しは取り戻せたようにも思えるけど、梅雨に入って滑りの悪くなった床は無駄に体力を持っていかれる。 「ふぅー…」 練習を終え、面を取り一度大きく呼吸を整える。 火照った頬に両手をあててしばらく目を閉じた。 …あっつい… 「お疲れさん!未宙ちゃん顔真っ赤。大丈夫?」   急に近くで田島先輩の声がして目を開けると、斜め上から体を曲げてのぞき込まれていた。 っ!近い…ですよ… 少し仰け反って、 「…あっ、はい。なんとか。私昔からちょっと運動しただけでもすぐ顔が真っ赤になるんです。だから…その、だいじょうぶなんです…」 わけの分からない返事を返してしまった。 …汗…臭くなかったかな。 「ははっ、そっか。未宙ちゃんって可愛いね。しっかり水分とったほうがいいよ。この時期は体調も崩しやすくなるからさ。」 「はい」 …かっ、可愛いって。 一気にまた頬が熱くなったような気がした。 冗談だとは分かっていても、周りに人がいる前でそんなことを言われると… 恥ずかしくて目の前の綿タオルを掴むと汗を拭くふりをして顔を隠した。
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