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マチューは親子の後を追い、その光景を目の当たりにした。
何も考えずに駆け出し、子を抱く母親を捕まえようと手を伸ばす。
何かを叫んだか、叫ぼうとした。
言葉として意味を成していなかったが、思いは胸中で形を成していた。
――――『死なないでくれ』。
終わらせてしまうのは簡単だ。
死後の事など誰にも解りようもないが、きっと自分を包む苦しみや悲しみから解き放たれるだろう。
それは解る。
しかしそれが終わりだなんて、そんな悲しい事はない。
我ながらよくもそんな上等な思考を持ち合わせたものだ。
だからこそ自分は報いを受けた。
――生きてほしいニンゲンに生きてもらおうとしただけダ。
「……だから、私にそんな資格は……」
――その辺りはともかく、死んだのにココでグダグダやっている事に対してギモンは?
「……それもそうだ。いや、死んだら誰もがこういう風に君のような者に会うとか、そういう事なのかい?」
――いや、キミは特別ダ。
マチューは首を傾げた。
と言うより、生きていた頃の姿であれば傾げたと思う。
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