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実質的に死んだのだから、もちろんその前に重体や心停止状態などで病院に担ぎ込まれたのだろう。
それについては何の問題もない。
たとえあったとしても、今考える事でもない。
時間の次に気になったのは、あの親子の行方だった。
必死に最後の記憶を辿ると、母親の腕に抱かれたあの子の手に触れたのを思い出した。
無理やりにでも、2人を抱えて車道から引っ張り出す事は出来たはずだ。
鈍痛が走り、そこでようやく自分の状態に気付いた。
見ると左手足に包帯と、額に大きなガーゼ。
思ったよりずっと軽傷である事に拍子抜けする。
喜ぶべきなのだろうが、どこにも立つ瀬が無いというように全く喜べない自分にも気付いた。
――あれは夢だったのか?
いや、現実に起こった事である確証が無い。
夢によって記憶が呼び覚まされる事があるのかどうか、ともかくはっきりと思い出した。
別に今まで忘れていたという訳ではないが、こんな風に意識したのは久し振りだ。
自分がグレゴワール・ブノワだという事。
エド・ゲインやアンドレイ・チカチーロやのように世界的に名を馳せている訳ではないが、彼らと同種の人間であるという事。
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