6人が本棚に入れています
本棚に追加
夢であれ何であれシニガミ、と言うか死神が自分の元に現れた。
つまりはマチュー・ロンシャンという自分に終わりが近付いている――――そういう暗示だったのではないか?
それならそれで仕方無い。
悪行を積めば地獄に堕ちる――それは死んだ後の話で、生きている間だってそれ相応の報いを受ける事になるのだ。
今更逃げるつもりは無い。
『何もそうとは言わなかっただロウ?』
聞いた事のある声が聞こえた。
自分がまだ眠り続けていて夢を見ているのでなければ、これは現実のものなのだろう。
『マチュー、いや、グレゴワールと呼んだ方が良いカ?どちらにせよキミの名だが』
「……これは現実かい」
『正真正銘、ゲンジツだとも。まだ信じていなかったトハ驚いた』
「すんなり信じる方がおかしいと思うが」
『だが現実ダ』
「…………死に損ねたという訳だな」
『損ねてはいナイ。どのみちキミは生き延びるハズだったんだゾ』
マチューは私を睨んだ。
殺し屋のそれに見えなくもない目つきは、変わりようのない過去を思い出させる。
それでも多くの人間は生きようとするものだ。
得体の知れない未来など、誰も手にしたくはないだろう。
仕事柄たまに手にしたがる連中もよく見かけるのだが、マチューの目はそういう連中とは違う。
即ち、目の前の男は生きようとしている。
それで充分じゃないか、と言ってやりたい。
.
最初のコメントを投稿しよう!