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マチューは諦めたように私から視線を反らし、電灯が貼りついているだけの天井を見つめた。
何を思っているのかと問おうとして、それもやめた。
彼は『生きて』いて、彼の人生に私の出る幕はない。
その常識は後にまたしても覆される事になるのだが、それも別の話だ。
マチューはまず手足の指先から徐々に動かしていき、まず満足に動かせると判断した。
そっと両足を床に下ろす。
ふとサイドテーブルを見て目を見開いた。
所狭しと、実際に場所を持て余し追加で設置されたらしい長机の上には、沢山の花束や絵を添えられたメッセージカードが並べられていた。
花束は同僚から、絵やメッセージカードは患者の子供達やその家族から。
――『早く良くなってね』。
端から端までを見回し、いくつかはそっと手に取った。
中にはマチューの似顔絵もあり、絵の彼は大きな笑顔を浮かべていた。
こんな風に笑うべきだと解っている。
それがマチュー・ロンシャンという男で、それが自分だ。
マチューは笑ってみた。
実際には弱く微笑んだだけで、苦しくて切なくて泣きたかった。
だが同時に嬉しくて、情けなくもあって、笑いたかった。
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