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どれくらいの間そうしていたか、ふと扉を叩く音がした。
いつかのように、思わず肩を飛び上がらせた。
――いつの事だろう。
扉が開き、部屋に入って来たのは良く知った顔だった。
マチューが勤務する病院長、クレイグ。
若くして病院を立ち上げ、たった今まで患者達を、自分達医師を、病院を牽引してきた立派な医者である。
視界に入った途端に目が合う。
いつものクレイグと何ら変わらない、穏やかで温和な目だ。
ただしそうと言って安心出来る訳ではない。
――安心出来なければいけないのか?
懐かしいような悪寒が背中に走った。
ただし酷く優しく静かで、その感触は全く懐かしいものではない。
それは骨の髄までに身の危険を知らせる信号で、大抵その信号は正確だった。
無論、今でもそうであるという確証はないが。
悪寒を努めて無視し、もっと良くクレイグの目を見返す。
確証を得たところで逃げられはしない、それも解っている。
解っているのに、そうせずにはいられない。
恐らく、良く思い知るためだ。
――報いを受ける日が来たという事を。
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