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――死に様なんぞ知ってユカイな事ではないだろう?それがヒドいものであれば。
「待て。すると相当酷い死に様だったのかい……?」
――私はナニも話さんゾ。
「…………」
密かに暴露すると、マチュー・ロンシャンの死に様は延々と本人を焦らして楽しめるようなものではなかった。
ただ何であれ、私にそれの何たるかを伝える義務はどこまでもないのである。
マチューはしばらく黙り込み、何か考えていた。
無論だが、考えたところで今後何がどうなる訳ではない。
この先で彼の身(と言うより魂とでも言うべきか)に何が起こるか私には解らない。
生前の家族や友人に言伝てを頼まれたり、身辺がどうなっているのか訊ねられたりした事も幾度かある。
実を言うとどちらも私にはどうにかならなくもない問題だ。
だが、私は敢えて何も語らない。
その理由は単純なもので、毎度のようにそんな手間のかかる事をしていては仕事の効率が悪くなる。
私にとって時間は半ば無制限のようなものだが、仕事量も同じく無制限のようなものだ。
この【世界】では絶えず生が死へと移り変わる訳で、いちいち魂の言いぶんや事情やに構ってはいられないのである。
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