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マチューの生まれた小さな病院の外では、紛争という名の殺し合いが絶えず行われていた。
誰もが血眼で生にしがみつき、他人から生を奪っていたのだ。
言うまでもなく我々シニガミは大忙しだった。
毎日毎日両腕に沢山の魂を抱え、ひたすら彼らを運んで行った。
マチューの母親の魂も誰かが運んで行った。
妊婦には大変に厳しい環境だったと思う。
彼女は重体で病院に担ぎ込まれ、息子の産声を聞いたかも解らない間に息絶えた。
無論、彼自身が当時の事を記憶している訳ではない。
彼は孤児院に収容され、自身の身の上についてはごく幼い頃に周りの大人達から教わっていた。
その事でやさぐれる暇も彼には与えられず、やがて少年に成長するにつれ、生と死の行き交う窮状へと放り込まれる事になった。
「初めて人を殺したのは、ちょうど10歳になった頃だ」
黙りこくっていたが『ふ』と思い出した。
偶然な事に私もその場に居合わせていたのだ。
マチューはちょうど10歳で、荒くれた生き方を身に付けたばかりだった。
まさに手足のように扱えるようになって久しい拳銃を握りしめ、自分の足元に広がる血だまりを見下ろしていた。
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