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「身が凍るような思いをしたな。今になって思い出すと……」
その当時決して怖い思いをしなかった訳でも、身が凍るような思いをしなかった訳でもない。
単にそんな事をしている暇は無かっただけの事で、彼もまた自らの生を守るために他人から生を奪う事を覚えた。
10歳のその時、彼はそうして生きる事を自分で選んだ。
無垢な子供でいる事はもう許されず、だんだんと深い闇の中に埋もれて行った。
彼に転機が訪れたのは10代の終わり頃。
殺しは呼吸と等しく当たり前の行為となり、私もしょっちゅう彼の姿を見かけていた。
「……私を知っていたのかい?」
今しがた思い出したに過ぎないのだが、まあそうなる。
ここまで深く知る事はほとんど無いのだが。
彼の質問を肯定しつつ、その日の光景を思い出す。
彼はいつものように、生きるための『呼吸と等しい行為』をこなしていた。
少なくとも彼はいつもと同じ日だと思っていたのだが、そうでは無かったという事だ。
マチューを取り囲む大人達はある問題に瀕した。
詳しい事は知らないが、彼は何の前触れもなく一切の後ろ楯を失った。
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