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大人達もまた自らの生を守ろうとしただけの事で、マチューには毛ほども彼らを攻める気は無いらしい。
ただ少しだけ悲しい思いをしながら、生まれ故郷を逃れた。
「たまたま、とある機関に匿われてね。逃げる手助けをしてくれたんだ。もちろんただでとは言わなかったが」
そこで彼は『マチュー・ロンシャン』という偽名、その他色々な偽物で形作った生を手に入れた。
医大に通い、医者となり、そして――――
――生まれ故郷に戻ったのだったナ。ハッキリ思い出した。ナゼだかギモンだった。
「……さあ、何故だろうね。紛争はとうに終結していたし、とにかく誰かの助けを必要としている人々が居たからかな」
――だがそれがキミの助けとは、ヒニクと言えるナ。
「そうだね。だが結果的に助けになれた。私はそれだけで満足しているよ」
故郷に戻ったマチューは何もかもが昔の彼とは打って違っていた。
誰も彼の正体には気付かず、だからこそ彼は医者として多くの命の助けになれた。
とは言え医者として、同時に余所者として暮らすようになった故郷で、しばらくは複雑な思いを抱いて過ごした。
何しろ救った命より奪った命の方が圧倒的に多かったのだから。
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