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カツカツ…指をテーブルに軽く打ち付ける音が、広いリビングの部屋に響いている。
数分後に現れた執事らしき男がワゴンを引いて現れた。
「お待たせしました。旦那様…本日の紅茶をお持ち致しました」
『この香りはローズだね…とても優雅な落ち着く香りだよ。ジョセフ』
「恐れ入ります旦那様」
執事のジョセフの日課は、旦那様の食事のお世話、身の回りの世話…朝から夜までを彼に捧げる生活である。
『紅茶に合うこのクッキーは…ミラリーの手作りだね…ほんのりオレンジの香りがする』
「はい旦那様…今朝調理室で仕込みを見まして焼き上がる直前の香ばしい匂いに誘われました」
器用な手つきで紅茶を器に注いで湯気の立ち上る部屋の温度が微かに上がった頃にもう一人の青年が現れました。
「やぁおはよう…僕にも紅茶を貰えるかな?ジョセフ」
旦那様の弟…カイルである。いつも好き勝手に夜遊びをして、平気で朝帰りをする素行の余り好ましくない人でした。
眉をピクリとも動かさずに、この部屋の主は気にする風もなく、優雅に紅茶の時間を楽しみました。
「相変わらず…澄ました顔して…言いたいことは分かるょ」
『私は何も言ってないよ?…夜遅くに出かけて朝方帰宅して、午後の紅茶タイムにノコノコ起きてくる事なんて微塵も興味が無い』
しれっとあしらう何時もの態度にカイルは反論する気も無いのか…黙々と執事が現れるのを待ちました。
「所で…この屋敷の庭にあるバラ園の奥にある古い塔は今はどうなってるのかな?」
『あそこには…近づかない方が身の為です。カイルとはいえ父のコレクションの奇妙さは理解してるてしょう?』
「確かに変わり者のパパだったけど…兄さんはあの中を知ってるの?」
『…今は封印している、悪魔を閉じこめたんだ』
ガタンと椅子を倒す音が響いた。
カイルが立ち上がり椅子を倒してたからである。
『悪魔って…兄さん』
「昔からカイルは怖がりだからね…でも脅しじゃないよ?本当に…父はあの塔に悪魔を封印した…僕でさえ近づけさせなかった』
執事のジョセフがタイミング良く現れて、カイルはそのまま逃げるように部屋を飛び出しました。
「紅茶は…必要無くなりましたね…」
『あぁ…済まないなジョセフ』
沈黙が部屋を満たしていく。
禁断の…鍵が僅かに緩むのも知らずに。
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