【一章】

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「元々、クロノスは普通の神界人だ。いや、クロノスだけじゃない。ゼウスもヘラもだ。しかし、クロノスに特別な力を与えたのはガイア本人。ヒュポノスの暴力に堪えかねたガイアは一人の少女に自分と同じ力を与えるため、塔に閉じ込めた。この監禁にも意味があって、クロノスが外に出てゼウスやヘラ、他の兄弟にも一部の力を与えたり、見せたりしてしまったからだ。元々、魔法など神界人には使えないはずだった。しかし、クロノスは何かをガイアから聞いたのだろう。妹達に魔法を教えてしまった。慌てたガイアはこれ以上の流失を恐れ、クロノスを特殊な鎖と建物を持って監禁し、力を与えた。ただ」  女禍の話を聞き入っている時だった。勢い良く駆けて来る足音。それはフリン達の横を通り過ぎる所で立ち止まった。 「フリンっ! あれっ!」  慌てたような表情を浮かべているのはモリガンだった。そして、その指を指す方向から赤い光と黒い煙が上っている。光の元にはガルデュークがあるのを頭で理解した瞬間、フリンは走り出していた。後から女禍やフレイヤが続く。嫌な予感をその場にいた四人は感じていた。ガルデュークに残されているのは怪我人や避難をして来たエデンの国民のみ。手負いで倒れている隊長クラスの人間以外に戦えるのは数人しかいない。獣道を掻き分け走って行く。全員が無事である事を祈りながら。  ガルデュークに近づけば近づくほど、熱気と炎による赤い光がはっきりと見えて来る。やがて、木々が開けた瞬間、フリンの足は走るのを止めてしまった。ガルデュークの木組みの門は火の粉を上げながら燃え、その周りにテントを張っていたエデンの騎士や国民達らしき焦げた死体が転がる。その門の中からは悲鳴が響いていた。 「何をしているのじゃ!」  後方から来た女禍がフリンの隣に並び立ち、惨状を見て顔をしかめる。続いてきたフレイヤもモリガンも言葉を失っていた。 「しっかりしろ、まだ中で生き延びている輩がいる。せめて、そいつらだけでも」  炎に包まれた門に向かって女禍が走り出す。歯を食いしばり、フリンも後を追いかけていった。  肌を焦がさんとばかりに熱を帯びる。建物と言う建物全てに火の手が上がり、全てを燃やし尽くしていく。ガルデュークの村の中央に出た瞬間、立ち尽くしているエロスとアルテミス、アテナの姿があった。
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