【一章】

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「エロス! アテナっ!」  フリンの呼びかけに反応もせず、一点を見ている三人。そこに追いつき、三人が見ている光景を見た時、フリンは目を見開いてしまった。亡くなった騎士達の墓として作られた気の十字架に、ヒューム、カウル、ミルカ、そしてメロディア。円を描いた十字架の中央に栗色の長い髪をした少女の姿があり、その顔を見てフリンは驚きを隠せなかった。 「メロ……」  闇烏討伐に向かう途中、夜盗に襲われ、怪我をしていた少年。そして、カーリーに殺された。しかし、髪の長さだけは違ったがその顔立ちも背格好もメロ本人だった。フリンの存在に気づいた少女はゆっくりと歩みを進め、フリン達の前に姿を表す。真っ白な何の変哲もないワンピースを纏う。これを少女が起こした事とは到底思えなかった。 「久しぶりだね、クレア。いや、クー・フリン。うぅん、ルー・セタンタ」  浮かべたのは満面の笑み。声色は再会を喜んでいるよう。フリンは腰に差した短剣を抜くと一歩前に出た。 「貴様は何者だ?!」  ワンピースの裾を両手の指先で摘み持ち上げ、小さく頭を下げる。そして、笑顔を潜め、真顔で顔を上げた。 「私の名はクロノス。クロノス・グロピウスと言う」  メロの姿をした少女がクロノス。フリンには理解が出来ず、睨みつける事しか出来ないでいた。 「今日は挨拶をしに来たんだ。ふふっ、理解し難いかい? それとも誰か知り合いに似てるかな?」  クロノス自身はフリンの考えている事がわかっているように見える。何故、殺されたはずのメロの姿で現れ、クロノスを名乗っているのか。幾ら考えても、理解出来ないでいた。 「お姉ちゃんっ!」  フリンの横を通り抜け、モリガンがクロノスに向かって飛び出していく。両手で握った剣をクロノスの頭に向かって振り落とした。しかし、クロノスは避ける仕種も見えない。ただ、振り下ろした剣が振り抜かれる事はなく、その剣戟は止められていた。 「君がもう一つの器だね? 今すぐ欲しいけれど、まだまだ足りないみたいだ」  モリガンの剣戟はクロノスの人差し指一つで受け止められている。幾らモリガンが力を込めてもびくともしない。しかし、クロノスが指を横に動かしただけでモリガンの体は大きく振られ、よろめいてしまった。
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