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「これから、器に水を注ぐ。深く大きな器だからね……。いっぱいいっぱい溜めなきゃ」
口元は笑っているのに、目は笑っていない。フリンは背中に悪寒を覚え、何とか捕らえられているメロディア達を解放しようと考えたが足が竦み、動けないでいた。
「よすのじゃ、クロノス。これ以上、私達の子である神界を荒らす事は許さぬ」
煙管を突き出し、クロノスを差す。クロノス本人は口元に手を持っていくと小さく笑い声を上げる。そして、背を向けると十字架の並んだ円の真ん中に入るとゆっくり振り返った。
「役立たずの神様なんていらないよ。精々、今から始まる劇を見て、痛感するといい。自分の無力さって奴をさ」
小さく手を振りながら、まるで霧のように消えていくクロノス。夢を見ているような感覚に陥りかけたフリンを引き戻したのは女禍の舌打ちだった。
「もう、話は終わったのかな? 私が喋っていい時間?」
クロノスと入れ替わるように現れたのは黒髪青瞳の百九十センチはあるだろうと言う女性。短めに纏めた黒髪を掻きながらフリン達を眺め、モリガンを見つけると不気味な笑みを浮かべた。
「娼婦の館にいたよね? 君?」
モリガンは驚いたように目を見開くと、女性は笑いを殺すように唇を手で覆っていた。
「覚えてない? ロキ・ルーサベルトの娘、フェンリル・ルーサベルトなんだけど。私が貴女の初めての相手なのになぁ~」
瞬きを忘れたモリガンは足を震わせながら後退りをする。今にも泣き出しそうな顔をしていた。それを見た瞬間、竦んでいた足に力が入り、モリガンの視界を遮るようにフリンが躍り出た。
「無駄話はそこまでだ。この惨事を引き起こしたのは貴様か?!」
フェンリルの青瞳がフリンへと移る。しかし、興味がないかのように視線を逸らすとその場の全員を見渡した。
「これから、喜劇を開演致します。楽しんで行って下さい」
あざとく左手を伸ばし、右手は胸に添え頭を下げる。フリンが短剣を抜こうとするとアテナが躍り出た。
「貴様の遊びには付き合ってられん。その連中を放し、さっさと消えろ」
頬が痙攣するのがわかる。それがアテナの体質である微電流だとわかったが、フェンリルがミルカの首にダガーを当てるのを見た瞬間、アテナも自重したのだろう。痙攣しなくなった。
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