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「勘違いしない事ね、喜劇を演じるのは貴方達。私はそれを見ているだけ」
不気味に目を細め、笑みを浮かべるとミルカの耳元で何かを囁く。ゆっくりした手つきで拘束していた縄を切り落とした瞬間、ミルカが信じられない声を上げ始めた。
「な、何をした?!」
恥ずかしがり屋のミルカに上げられるような声ではない。正確には遠吠えに近かった。体を揺らめかせながら正面を見たミルカの変化にフリンは目を見開く。歯を食いしばり、目をギラつかせる。口角からはとめどなく涎が垂れ、もはや人間には見えなかった。
「ミルカっ!」
咄嗟に叫んだ瞬間、体が何かに包まれ、衝撃が走る。気づけば、エロスに抱き抱えられていて、その数メートル横に変わり果てたミルカの姿があった。
「クーちゃん、あれはもうクーちゃんが知っていた少年ではない」
フリンを腕の中から放すと、エロスが拳を鳴らしながら構えをとる。しかし、フリンがエロスを止めるべく、腕に掴みかかると思い切り振り払われてしまった。
「フリン、お前が思うほどこの世界は優しく出来ていない事に気づけ」
エロスの話し方が変わったのを見たのは、戦の時以来。こうなった時は余裕がなく、相手に不足がない事を指す。しかし、エロスと対峙しているのはあのミルカ。少ない思い出の中にいる彼はいつも優しく、可愛げのある人間なのだ。
「エロスっ! やめてくれっ! ミルカはっ!」
「いい加減にしろっ! クフリンっ! エロスを見ろっ! 油断すればやられるのはあいつだっ!」
エロスより小さな体なのに、力負けせず組み合っている。目は血走り、腕には太い血管が浮かび上がる。フリンは短剣を抜くとフェンリルに向かって走り出す。しかし、今度はミュームの太ももにダガーを突き刺したのだった。痛みで叫び声を上げるヒューム。それを聞き、笑い声を上げるフェンリルを見て、フリンは頭が熱くなり冷静さを失い始めていた。
「貴方とモリガンちゃんの出演はまだよ? 次はアテナとアルテミスの処女を奪わせようかしらね」
フェンリルが痛みに悶えるヒュームに歩み寄る。そして、耳元で何かを呟くため、唇を寄せた瞬間だった。目に見てわかるほどの青い電流が走るのがわかる。それと同時にミルカが倒れ、泡を吹き出し、フェンリルは持っていたダガーを地面に落としたのだった。
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