【一章】

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「舐めるなよ、デガブツ女が……。こっちは国を破壊され、挙げ句の果てに弱者であるかのようにコケにされる。いい加減、腑が煮えくり返りそうだ……」  目元を痙攣させ、静かに剣を送換させたアテナ。エロスもアテナも溜まりに溜まったモノがあるのだろう。俯いたかと思うと、数十メートル先にいるフェンリルの懐に潜り込み、剣を振り抜いていた。その剣戟は間一髪で避けられ、頬を掠める程度。しかし、人質との距離を確保する事に成功し、拘束されていた三人をアルテミスが解放した。 「見事です、アテナ。いつもはやられてばかりなのに」 「黙れ、アバズレっ! お前も一緒に消すぞっ!」  力無く座り込むメロディアに駆け寄り、呼吸がある事を確認する。フリンを見て、親指を立てるカウル。安心した途端、冷静になったフリンは立ち上がり、アテナの隣に歩み寄った。 「ありがとう、アテナ。頼りになるな」 「ふんっ、そういう事は元に戻ってから言えっ」 「いやいや、見事見事。流石、テナちゃんっ! 助かったよっ! 後は……」  フリンを始め、アテナもエロスもアルテミスも並び立ち、フェンリルを睨みつける。しかし、フェンリルは表情を変えず、高笑いを始めた。その瞬間、気絶していたはずのミルカともう一つ叫び声が上がる。それは太腿を刺されていたヒューム。白眼を向き、額に太い血管を浮き立たせ、獣のように涎を垂らしていた。 「ちっ!」  本能だけで繰り出される攻撃を前に、再び個々に別れさせられる。素手とは思えない攻撃を受け止めるのに精一杯のアテナ。エロスをも凌ぐ腕力を持つミルカを前に反撃出来ないでいた。 「フリンっ! フェンリルを直接叩くぞっ!」  紅の着物を翻し、フェンリルに向かっていく女禍。それを合図にフリン、アルテミスも同時に動き出す。三方向から攻撃を仕掛ける寸前、フリンの頬に懐かしい冷気を感じ取る。その時、巨大な氷がフェンリルを包み込み、攻撃を弾き返したのだった。
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