【一章】

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「お願いがあるの……。私にもし、何かあった時は息子を……。セタンタをよろしくお願いします」  黒と白を掛け合わせた灰色の髪と金色の瞳。長く伸ばした髪とその顔立ちは幼さを残してはいない。 時は『ラグナロク聖戦』が過激さを増し始めた頃。生き別れたかつての友であり、主君であった紫公爵の姫デヒテラと再会を果たし、三回目の訪問だった。真っ青な空と風に揺れる草、栄える赤の屋根と白塗りの教会の前での出来事。曇った表情のまま、スカアハを見つめたデヒテラは開口一番にそう言葉にした。 結婚し、子をもうけていたのは知っている。しかし、急にそんな大切な事を言われたのに驚いた。こんな荒れた世に不安を抱いたのか、伏し目がちに見える。病弱だった幼少の頃に見せた表情だった。 「何かあったのか?」  ここは連合軍が統治する国。いずれ、戦禍に巻き込まれる可能性はある。 ただ、そんな事ではないはずだとスカアハはデヒテラを見つめていた。 「発作……、が出てきて」  声が震えている。 幼少の頃の発作だと思い、スカアハは目を見開く。ただ、デヒテラの僅かに開けた口から見える鋭い牙。それを見て、悟ってしまった。 「デヒテラ、また我慢を?」 「うぅん……、夫から貰ってるよ? でも、どんどん周期が短くなってきてるの。だから、お願い」  エデンで見た女体化したフリンはデヒテラそのものだった。いつか、息子であるフリンと親友であるスカアハが対峙するのを予見していたかのよう。だが、それをスカアハ自身理解していた。 デヒテラの想いを理解しながらも、フリンと対峙する運命に従う決意をした。約束を破る事になるのが辛く感じられたが、スカアハは固く目を閉じ、歯を食いしばる。そして、目を開き直すとあの日のような空を睨みつけた。
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