【一章】

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「ヘパイストス、助かったっ!」 「おぉ……。だが、俺は役に立たんぞ……」  アルテミス同様、ニーナの斬撃を受けているヘパイストスも立っているのはやっと。それをロイズが支えながら歩いてきていたのだ。 「人質だった四人は安全な場所へ避難させた。何も気にする事はない」  青白い顔をしたロイズ。手負いが三人いて、暴走するモリガンを抑える事など出来るのか全くわからない。しかし、悩んでる暇はない。フリンはモリガンを見据えると短剣を構えた。 「やるしかない。ロイズ、ヘパイストスは下がってろ。アルテミス、お前が闘えないのは痛いがそれでも」 「アテナ、私の傷を麻痺させて下さい」  大剣と化したオリオンを頼りに立ち上がるアルテミス。鋭い眼光でアテナを睨みつけるが、アテナは躊躇したように視線を外してしまった。 「傷を麻痺させるのは構わん。だが、傷が痛まなくなる代わりに何処か一カ所、いや二カ所は動かなくなるぞ」  治癒魔法ではない上、治癒魔法で合ってもそんなにすぐに傷口を塞げるわけではない。一つ間違えれば、機動力や力も入らなくなり、最悪、動けなくなる場合もある。あくまで緊急時の処置で繊細な動きをするアルテミスには危険があるとしか言えないのだ。 「やれっ! 私が何故、生かされ、時を跨がされたのかお前にはわかるまいっ! 兄を奪われ、愛する者さえ失った私のっ! 私の闘う理由などわからないっ! 私には背負うべき物があるっ! こんな所では死ぬわけにはいかぬのだっ!」  アテナに縋るように両肩を掴む。しかし、その目には力があり、執念を感じられる。眉間に皺を寄せ、強く目を閉じたアテナは決意したかのように目を見開き、アルテミスの胸に手を添えた。 「お前の力が必要だっ! アルテミスっ!」 「ありがと、アテナ……」  青白い光が淡く、アルテミスを照らす。後退りをしたアルテミスは魔法剣オリオンの柄に捕まり、額を当て、すぐ顔を上げた。 「負けるわけには行きません。何としても、彼女を止めます」 「クフリン、手加減など考えるな。ギリギリで息を繋げればラッキーだ。最悪、死なせる羽目になるな」 「クーちゃん、生きた方の勝ち。そういう状況だね」  モリガンを取り巻く闇は、この神界が与えた物。黒より遥かに黒い。だが、そこに差すのは小さな光でいい。平等に差すはずの光をフリンは与えて上げたかった。
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