【一章】

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「俺の詠唱が終わるまで、攻撃を防ぎ切れるか?」  アルテミスにはモリガンの動きを読む目がある。エロスには正確に射抜く射手としての力がある。アテナには不屈の精神が宿り、フレイヤには熱い気持ちがある。全員を見渡すと頷き、フリンは後ろに下がった。胸の位置で手を重ね、目を閉じる。それと同時にフリンの金色の髪が宙に舞い、揺れた。 「勝負は一瞬です。彼女が魔法を放った瞬間、私がそれを切り裂きます。フレイヤ様が目眩ましの炎を、その後すぐエロス様が弓を射り、肩を射抜いて下さい。最後はアテナとクー・フリン様の魔法にかかっています」  突き刺した大剣を抜くと大きく一振りし、構えを取る。それを合図に全員がモリガンを見据え、その時を待った。 「お前らも闇に墜ちよ……、私の苦しみ、怨み全て感じさせてやる」  暗闇に浮かび上がるモリガンの深紅の瞳。そして、左手を突き出した瞬間、アルテミスが走り出した。掌から放たれる黒い球体を切り裂き、左右に分かれる。アルテミスが身を逸らした後、フレイヤが目眩ましの火の玉を放つ。それをモリガンが右手で弾けば、エロスが射る弓がモリガンの肩を射抜いていた。僅かに出来る怯みにアテナが懐に潜り込むと顔を鷲掴みにし、帯電し始めた。 「怪物女っ! これは悪い夢なんだよっ! 早く目を覚ませっ!」  アルテミスの傷に使っていた僅かな電気も今はモリガンに向けられている。麻痺の解けたアルテミスはあまりの痛みに膝から崩れ落ちた。 アテナの電気に羽を維持出来なくなってくる。しかし、見開いた目はアテナを睨み、必死に手を解こうとしていた。 「リアン、少し痛いかもしれない……。けれど、その痛みは皆が抱く痛みだ。辛いのはお前だけではないのだ。月昊魔法、滅封剣斬っ!」  月の明かりを受けた短剣が光輝き、宙に浮かび上がる。そして、切っ先をモリガンに向けるとその胸に向かって飛んでいく。寸前でアテナが身を翻せば、剣がモリガンの胸に突き刺さったのだった。 「クーちゃん……」 「大丈夫だ、あれは本当に刺さっているわけではない。湧き上がるほどの魔力がモリガンにはある。それを抑えただけだ」  力なくうなだれるモリガン。体を大きく揺らすと倒れそうになり、それをフリンが受け止めていた。魔力の使い過ぎなのか、息の吐き方がおかしい。フリンが支えながら座るとその頬に手を添えた。
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